【お迎え当日】運命を動かしたブルーの瞳。カーテンの裏から始まった、不器用な再出発。

🕰️ 止まった時計が動き出すまで

先代の猫を13歳で見送ってから、私の心にはぽっかりと穴が空いていました。あんなに深く愛した家族を失う悲しみは想像以上で、「もう二度と、あんな思いはしたくない」。そんな気持ちが、いつも心の奥にありました。部屋にはまだ思い出の品が残っているのに、そこに温かい命の気配がないことが、毎日を静かに重くしていました。

それでも、時間が経つにつれて、ふと里親募集サイトを眺めている自分に気づきました。焦っているわけではない。ただ、心のどこかで「また失う怖さ」と向き合う覚悟を、少しずつ積み重ねていたのかもしれません。画面に映る猫たちの瞳を見ながら、「もう一度、家族を迎えてもいいかな」と、そっと自分に問いかける日々が続いていました。

👀 運命の出会い:先代と重なった瞳

何通か応募しても、すぐにはご縁に恵まれない日々が続きました。でも、それでいいと思っていました。きっと、「この子」という運命的な出会いは、自然にやってくるものだから。

そんなある日、一枚の写真に目が留まりました。そこに写っていたのは、他の子とは少し違う、ちょっと変わった個性的な顔立ちの猫ちゃん。そして、その子が真っ直ぐに見つめ返してくる瞳の色は、驚くことに先代の猫と同じ、深く澄んだブルーだったのです。

その瞬間、「この子だ」と心が静かに決まりました。理屈ではなく、何かが繋がった感覚。先代が、私に新しい家族を紹介してくれたような気がしたのです。これが、りんとの運命的な出会いでした。

🪟 お迎えの夜:カーテンの裏で固まるりん

お迎えの日は、前の飼い主さんが車で私のマンションまで送ってきてくださいました。期待と少しの緊張を胸に、キャリーバッグを受け取ります。玄関で「今日からよろしくね」と心の中で語りかけながら、リビングにキャリーをそっと置きました。

しかし、キャリーの扉を開けた途端、りんは迷うことなく一直線に部屋の隅へ。そして、そのままカーテンの裏に隠れてしまいました。クッションも毛布もない、冷たい床の上に丸まって、小さな体でじっと固まっています。

様子が気になってカーテンを開けようとすると、りんは私に背を向け、さらに端っこの方へと身を隠そうとします。

もちろん、少しだけ寂しい気持ちはありました。でも、無理に仲良くなろうとは思いませんでした。先代との日々で学んだことがあります。猫には猫のペースがある。環境が変わって不安なのは当たり前。ここは、りんが自分から心を開いてくれるまで、静かに待とう。深いペットロスを経験したからこそ、焦って距離を詰めることの無意味さを、私は知っていました。結局その夜は、諦めてそっとしておくことにしました。

🗼 翌朝の小さな奇跡:先代から受け継いだ場所

結局、りんは翌朝までクッションもないカーテンの裏で過ごしていました。私はそっと部屋を暗くして、りんにとって初めての夜が静かに過ぎるのを待ちました。カーテンの隙間から、時折聞こえる小さな息遣いだけが、りんの存在を教えてくれます。

そして翌朝。恐る恐るリビングを覗くと、ようやくカーテンの裏からりんが顔を出していました。少しずつ、周囲を確認するように部屋を見回しています。

そして、りんが「ここだ」と決めた居場所は——先代の猫が愛用していた、低めのキャットタワーでした。そこはハンモックのようになっているのですが、その場所がよほど気に入ったのか、一度収まるとそこから頑として離れません。

まるで先代が「ここがいいよ」と教えてくれたかのように、そこにぴたりと収まり、安心したように丸くなる姿。「場所固定」でリラックスしているりんを見て、「ああ、家族のバトンが繋がったんだな」と、胸の奥がじんわりと温かくなりました。

触れ合うことはまだできない。でも、それでいい。同じ空間に命があるだけで、部屋の空気が優しく変わった気がしました。先代との思い出を大切にしながら、新しい家族との時間が、ゆっくりと始まろうとしていました。

不器用な再出発に必要なもの

お迎え初日は、触れ合うことも、抱きしめることもできませんでした。でも、それで良かったのだと思います。

病院やグッズの準備ももちろん大切です。でも、一番必要なのは「猫のペースに合わせて待つ」という、優しい忍耐強さでした。深いペットロスを経験したからこそ、私はそれを知っていました。無理に距離を詰めても、信頼は生まれない。ただ、そばにいて、見守る。それだけで、猫は少しずつ心を開いてくれます。

深い悲しみを乗り越えて、新しい家族を迎える。それは、ただ楽しいだけの道ではありません。「また失う怖さ」と向き合いながら、それでも命を愛する勇気を持つ、不器用な再出発でした。けれど、りんがカーテンの裏から踏み出した小さな一歩が、私にこう教えてくれたのです。

「ゆっくり、時間をかけて家族になろう」と。

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